世界遺産・ボロブドゥール遺跡!世界最大級の仏教寺院の歴史を紐解く
インドネシア・ジャワ島の中央に位置するボロブドゥール遺跡。世界最大級の仏教寺院として知られるこの遺跡は、その壮大さと神秘的な雰囲気で多くの旅行者を魅了し続けています。また、世界遺産にも登録されていて、インドネシア観光の目玉の一つとして人気のある観光地です。
この記事では、ボロブドゥール遺跡の魅力や歴史、仏教との深い関わりについて詳しく解説します。また、同じく東南アジアの仏教遺跡として有名なアンコールワットとの違いや、周辺の観光スポットについても紹介していきます。
ボロブドゥール遺跡とは?
ボロブドゥール遺跡の特徴
ボロブドゥール遺跡は、インドネシア・ジャワ島中部マグラン県のボロブドゥール地区に位置する巨大な仏教寺院遺跡です。その名前の由来については諸説ありますが、「多くの仏塔を持つ丘」という意味のジャワ語「ボロ(多い)」と「ブドゥール(仏塔)」から来ているという説が有力です。
この遺跡の最大の特徴は、その規模の大きさと複雑な構造にあります。全体が9層の階段ピラミッド状になっており、その上に72基の小さな仏塔(ストゥーパ)が並んでいます。使用された石材の総量は膨大で、世界最大級の仏教寺院として知られています。
しかし、ボロブドゥール遺跡には長い間埋もれていたという驚くべき歴史があります。10世紀頃から徐々に放棄され、遺跡全体が土砂や植物に覆われてしまったのです。この「埋もれた寺院」は、1814年にイギリス統治下のジャワ島総督トーマス・スタンフォード・ラッフルズによって再発見されるまで、約1000年もの間、人々の記憶から忘れ去られていました。
その後、19世紀から20世紀にかけて、オランダ植民地政府や独立後のインドネシア政府、そしてユネスコによる大規模な修復作業が行われ、1991年にはついにユネスコ世界文化遺産に登録されました。「失われた寺院」が世界的な観光地として蘇ったのです。
ボロブドゥール遺跡の魅力
ボロブドゥール遺跡の魅力は、その圧倒的なスケールと精緻な芸術性にあります。遠くからは巨大な石の山のように見えますが、近づくにつれてその驚くべき建築美が目に飛び込んできます。
遺跡を形作る無数の石材は、一つ一つが精巧に加工され、隙間なく積み上げられています。2,670枚以上もの浮き彫りレリーフには、仏陀の生涯や仏教説話、当時のジャワの生活風景が克明に描かれており、まるで仏教の教えを学ぶ巡礼の旅をしているかのような体験ができます。
遺跡の頂上に並ぶ72基の小さな仏塔も見逃せません。特に中央のストゥーパ(仏塔)は神秘的な雰囲気を醸し出しています。さらに、周囲の豊かな自然景観も魅力の一つです。朝日や夕日の時間帯には、天候条件がよければ、メラピ山やスンビン山を背景に幻想的な景色を楽しむことができます。
このように、ボロブドゥール遺跡は芸術性、宗教性、自然との調和が見事に融合した「生きた遺産」であり、訪れる人の心に深い感動をもたらします。
ボロブドゥール遺跡の歴史
建造と隆盛の時代
ボロブドゥール遺跡は、8世紀後半から9世紀にかけて、ジャワ島中部を支配していたシャイレンドラ朝によって建設されたと考えられています。建設には数十年もの歳月を費やし、9世紀初頭に完成したと推定されています。
当時のジャワは、インドとの交易を通じて大乗仏教、特に密教の影響を強く受けており、ボロブドゥールはその信仰を具現化した壮大な仏教寺院でした。完成後、ボロブドゥールは東南アジアにおける重要な仏教巡礼地として栄え、多くの巡礼者が訪れたと考えられています。仏教の教えを伝えるための学問や芸術の中心地としての役割も果たしていた可能性も指摘されています。
しかし、10世紀に入ると、ジャワ島の政治情勢や宗教的な変化に伴い、ボロブドゥールの重要性は徐々に低下していきました。
廃絶と埋没の時代(ボロブドゥール遺跡が埋もれていた理由)
10世紀以降、ジャワ島の政治の中心が東に移り、ヒンドゥー教の影響力が強まるなど、政治・宗教的な状況が大きく変化しました。その結果、仏教寺院であったボロブドゥールは徐々に衰退し、人々の記憶から遠ざかっていきました。
また、ジャワ島は火山活動が活発な地域であり、度重なる噴火による火山灰や土砂がボロブドゥールを覆ったと考えられています。さらに、熱帯雨林の植物が急速に成長し、遺跡を覆い隠していったことも、埋没を加速させた要因の一つです。
一説には、イスラム教の影響力の拡大に伴い、仏教寺院であるボロブドゥールを意図的に隠したという説も存在しますが、確固たる証拠は得られていません。
これらの複合的な要因が重なり合い、ボロブドゥールは長い年月をかけて土砂と植物に覆われ、「失われた寺院」となったのです。
再発見と修復の時代(世界遺産登録)
ボロブドゥール遺跡の運命が大きく変わったのは、1814年のことです。イギリス統治下のジャワ島総督トーマス・スタンフォード・ラッフルズの調査隊が、密林の中から「失われた寺院」を発見しました。
再発見後は、オランダ植民地政府による調査が始まりましたが、本格的な修復は20世紀に入ってからはじまりました。1970年代にはユネスコとインドネシア政府が協力して大規模な保存修復プロジェクトを実施。このプロジェクトでは、遺跡全体を一度解体し、最新の技術を用いて再構築するという大胆な手法が採用されました。
1991年、ボロブドゥールはユネスコ世界文化遺産に登録され、その価値が世界的に認められました。しかし、自然災害や観光客の増加、気候変動など、新たな課題も浮上しています。現在も、ボロブドゥールを後世に残すための取り組みが続けられています。
ボロブドゥール遺跡と仏教の関係
大乗仏教の思想
ボロブドゥールは、大乗仏教の宇宙観を三次元的に表現した壮大な曼荼羅です。すべての衆生が悟りを開くことができるという大乗仏教の根本的な思想に基づき、宇宙の構造や、衆生が悟りに至る過程を視覚的に表現しています。
遺跡を巡る巡礼路は、宇宙の構造を巡る旅路であり、同時に、衆生が煩悩を克服し、悟りの境地へと至る過程を象徴しています。最上階の中央に位置するアディ・ブッダは、まだ悟りを開いていない仏の姿を表し、衆生が目指すべき目標を示しています。
ボロブドゥールは、単なる宗教建築物ではなく、仏教哲学の教科書のようなものであり、その深遠な思想は、現代においても人々に深い感動を与え続けています。
曼荼羅としての構造
ボロブドゥール遺跡の構造は、仏教の宇宙観を表す曼荼羅(マンダラ)を三次元的に表現したものです。遺跡は3つの領域から成り立っています。
- 欲界(カーマダートゥ):最下層の階段状部分で、人間の欲望や煩悩の世界を表します。
- 色界(ルーパダートゥ):中間の4層の方形テラスで、物質的な形はあるが欲望から解放された世界を表します。
- 無色界(アルーパダートゥ):最上部の3層の円形テラスで、物質的な形さえも超越した純粋な精神世界を表します。
この構造は仏教の「三界」の概念を立体的に表現しており、巡礼者は下から上へ進むにつれて、煩悩から解放され、悟りの境地へと導かれると考えられています。各層に配置された仏陀や菩薩の像も曼荼羅の思想に基づいています。
遺跡の平面図はチベット仏教の曼荼羅図と類似しており、ボロブドゥール遺跡全体が巨大な立体曼荼羅として設計されたことがわかります。巡礼者はこの遺跡を巡ることで、象徴的に仏の世界を体験できるのです。
レリーフに描かれた仏教の物語
ボロブドゥール遺跡には、精巧に彫られた2,670枚以上ものレリーフパネルがあり、総延長は約3キロメートルに及びます。これらは「石に刻まれた経典」とも呼ばれ、仏教の教え、仏陀の生涯、当時のジャワの生活風景などが描かれています。
主なレリーフの内容は以下の通りです。
- カルマウィバンガ:善悪の行いとその結果を描いています。
- ララワッラ:人間の欲望や日常生活の世俗的な場面を表現しています。
- ジャータカとアワダーナ:釈迦の前世の物語と仏教聖者の美徳を讃える物語です。
- ガンダウューハ:求道者スダナの悟りを求める旅の物語です。
- バドラチャリ:普賢菩薩の十大願が描かれています。
これらのレリーフは、仏教の物語だけでなく、当時のジャワの社会や文化も反映しています。彫刻技術は非常に高度で、インド様式とジャワ様式が融合した独特の芸術性を示しています。
ボロブドゥール遺跡を訪れる際は、これらのレリーフをじっくりと観察することで、仏教の深遠な思想と当時のジャワ社会の息吹を感じ取ることができるでしょう。
アンコールワットとの違い
ボロブドゥール遺跡とアンコールワットは、東南アジアを代表する巨大寺院遺跡ですが、建築様式や宗教的背景に大きな違いがあります。
- 構造:ボロブドゥールはピラミッド型で内部空間がなく、アンコールワットは寺院山様式で広大な内部空間があります。
- 材料:ボロブドゥールは火山岩、アンコールワットは砂岩を使用しています。
- 装飾:ボロブドゥールは仏教の教えを表現したレリーフ、アンコールワットはヒンドゥー教の神話を描いた彫刻が特徴です。
- 宗教:ボロブドゥールは大乗仏教、アンコールワットは当初ヒンドゥー教、後に上座部仏教の寺院となりました。
- 目的:ボロブドゥールは個人の精神的成長と悟りの象徴、アンコールワットは王権と神々の力の表現です。
これらの違いは、各遺跡の時代背景や文化的コンテキスト、宗教的目的を反映しています。両遺跡を比較することで、東南アジアにおける仏教とヒンドゥー教の影響の違いや、各文明の独特の世界観をより深く理解できます。
ボロブドゥール遺跡の場所とアクセス
ボロブドゥール遺跡は、インドネシア・ジャワ島中部のマグラン県に位置しています。ジョグジャカルタ市の北西約40キロメートル、ジャワ島の中心部にあたる場所です。
そのため、ボロブドゥールへは、ジョグジャカルタから日帰りツアーやレンタカーを利用するのが一般的で、公共バスも運行されています。また、スマランからもアクセスでき、ジョグジャカルタと同様に、日帰りツアーも利用できます。
遺跡への入場に関する注意点:
- 開場時間は通常、午前6時から午後5時までです。
- 日の出や日没時の景色が特に美しいため、早朝や夕方の訪問がおすすめです。
- 遺跡内では、適切な服装(肩と膝を覆う服装)が求められます。
- 靴を脱いで上層部に上がる必要があるため、脱ぎやすい靴を履いていくのがよいでしょう。
また、ボロブドゥール遺跡周辺には、いくつかのホテルやリゾートもあります。遺跡をゆっくりと楽しみたい方や、早朝の景色を楽しみたい方は、周辺に宿泊するのも良い選択肢です。
ボロブドゥール遺跡周辺の観光スポット
ジャワ島中部には、ボロブドゥール以外にも魅力的な観光スポットがたくさんあります。ここでは、特に人気のある3つのスポットを紹介します。
プランバナン寺院
プランバナン寺院は、ボロブドゥール遺跡と並んでジャワ島を代表する世界遺産です。ジョグジャカルタの東約18キロメートルに位置するこの寺院は、9世紀頃に建造されたヒンドゥー教寺院群です。
多くの観光ツアーでは、ボロブドゥールとプランバナンを1日で巡るコースが用意されています。両方の遺跡を訪れることで、ジャワ島の仏教とヒンドゥー教の文化遺産を比較しながら楽しむことができます。
ムラピ山
ムラピ山(メラピ山)は、ジョグジャカルタの北に位置するインドネシア最活動的な火山の一つです。その名前は「火の山」を意味し、その美しさと危険性で知られています。
安全上の理由から、ムラピ山への訪問は必ずガイド付きのツアーで行くことをおすすめします。火山活動の状況によっては立ち入りが制限される場合もあるので、事前に最新情報を確認することが重要です。
ジョグジャカルタ市内観光
ジョグジャカルタは、ジャワ島の文化の中心地として知られる都市です。ボロブドゥール遺跡への拠点として利用されることが多く、市内には見どころがたくさんあります。
ジョグジャカルタの主な観光スポット:
- スルタン宮殿(クラトン):ジョグジャカルタのスルタン(王)の居城であり、ジャワ宮廷文化の粋を集めた建物で、現在も王族が住む活きた宮殿です。
- タマン・サリ水城:スルタンの離宮として造られた美しい庭園で、地下には温水プールがあり、かつては王族がここで水浴びを楽しんでいたと言われています。
- マリオボロ通り:ジョグジャカルタの中心部を走る賑やかな通りで、バティックや銀細工など、地元の工芸品を扱うお店が軒を連ね、夜には屋台が並び活気あふれています。
- コタグデ:ジョグジャカルタの旧市街地で、中国人が多く住んでいた歴史を持ち、古い建物や寺院が残る独特の雰囲気を持つエリアです。
- アファンディ美術館:ジャワの現代美術を代表する画家、アファンディの作品を展示する美術館で、彼の独特な絵画世界に触れることができます。
ジョグジャカルタ市内観光は、ボロブドゥール遺跡やプランバナン寺院訪問の合間に行うのがおすすめです。伝統と現代が融合したこの街の雰囲気を楽しみながら、ジャワの文化をより深く理解することができるでしょう。
おわりに
ボロブドゥール遺跡を中心としたジャワ島中部の旅は、訪れる人に深い感動をもたらします。この地では、古代仏教文明の偉大さ、雄大な自然、そして伝統文化が織りなす魅力を直接体験できます。
早朝の朝もやに包まれた遺跡や、夕暮れ時の幻想的な雰囲気は圧巻です。静寂の中での瞑想は、古代の巡礼者の心持ちを追体験する機会となるでしょう。地元ガイドの解説を聞きながら遺跡を巡れば、石に刻まれた物語の意味をより深く理解できます。ジャワ島では、五感を全開にしてその魅力を存分に味わってください。
ボロブドゥール遺跡周辺で安定した通信環境が得られないことがあるため、事前にレンタルWiFiやeSIMを準備しておくことをおすすめします。
インターネット接続があれば、遺跡の最新情報や交通手段をリアルタイムで確認でき、地図アプリを使って複雑な地形も迷わず探索できます。翻訳アプリを活用すれば、現地ガイドの詳しい解説も理解しやすくなります。さらに、美しい仏塔群や精巧なレリーフをSNSで即座に共有することもできます。
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